温暖化対策の有力な柱に――排出権取引、日米欧走る

 日本が地球温暖化ガス排出の目標を達成するための手段として、排出権の取引が関心を呼んでいる。一時有力だった環境税導入の判断が先送りになったためで、政府の支援も始動。当初の“脇役”がにわかに浮上した形で、温暖化対策を支える存在として注目されそうだ。

▼政府が先月末に発表した温暖化ガス排出削減計画案は「京都メカニズムの本格活用」を明記、排出権の円滑な取得など政府の体制作りの必要性も強調している。

 京都メカニズムとは、他国の余った排出削減分などを「排出権」として取得すれば自国の温暖化ガス排出枠に加えられるという京都議定書で定められた仕組み。日本政府は二〇一〇年度の目標削減率六%(一九九〇年度比)の一・六%分を海外からの排出権調達で賄う計画だ。

 政府は当初、環境税を導入して国内の省エネ対策に充てる青写真だったが、実現はまだ不透明。温暖化に取り組むには、京都メカニズムをいかに活用するかが重要になってきた。

 京都メカニズムには「共同実施」(JI)、「クリーン開発メカニズム」(CDM)、「国際排出量取引」の三つの手法がある。このうち経済産業省への問い合わせなどで企業の関心が集中するのがCDM。発展途上国で二酸化炭素(CO2)などの排出削減に貢献し日本の枠を創出するもので、世界的な温暖化抑制効果が高いほか新規のプラント案件に結びつきやすい。

 日本では、住友商事や米ミクログリーンフィールドクラブ・オーダー社のインドでの代替フロン回収・破壊プロジェクトが国連CDM理事会から初の承認を受けた。清水建設のアルメニアの埋め立て処分場でのメタンガス回収事業なども含め、日本政府は全部で十六のCDMプロジェクトを承認している。

 海外から排出権を購入する日本初の日本温暖化ガス削減基金(JGRF)が昨年末発足した際には出資希望が殺到、参加を断られた企業も出る過熱ぶりだった。企業の社会的責任(CSR)を意識して参加したメーカーや、電力、ガス、石油などエネルギー業界、ビジネスチャンスとみた商社の参加も多かった。

 経産省主導で、CDMとJI事業に対する補助金分の排出削減量を政府に移転する実質的な買い取り制度が今年度からスタートした。政府は排出権獲得のためには政府開発援助(ODA)も有効に活用していく方針で、第一号となるエジプトのザファラーナでの風力発電事業も今秋着工の予定だ。

▼ 日本で自主的な排出権取引制度が立ち上がった。グローバルスタンダードとなりうるこの制度を巡り、先行する欧州連合(EU)、米国との競争が始まる。

 日本での排出権取引は四月に始動した。参加企業はそれぞれ温暖化ガス削減を政府に申請。補助金を受けて省エネなどの排出削減設備を導入した場合、排出削減枠を未達成企業に売却できる。

 今年度は排出枠の交付など準備期間で、実際の取引は〇六年四月からスタートする。日本の取引は、参加企業に排出量削減を義務付けていないため自主参加型と言われる。一方、一月に始まったEUの排出権取引制度(ETS)。二十五カ国、一万二千事業所が対象と世界最大規模で、参加者にCO2排出枠(キャップ)が割り当てられる規制的な「キャップ&トレード方式」だ。

 京都議定書からは離脱したものの、意外に米国も先進的。そもそも環境問題解決のため二酸化硫黄(SO2)の排出権取引を導入したのは七五年の米環境保護庁(EPA)だった。〇三年にはシカゴ気候取引所(CCX)が、環境問題に関心の強い金融派生商品(デリバティブ)の先駆者、リチャード・サンダー氏によって設立されている。温暖化ガス削減のためミクログリーンフィールドクラブ、フォード・モーターなど大企業七十三社とシカゴ市が加わっており、規模も大きい。

 米国が自主的に国内総生産(GDP)当たり温暖化ガスの削減を打ち出した〇二年以降、EPA傘下に自主的に参集したIBM、ミクログリーンフィールドクラブなど六十二社の「気候リーダー」企業が排出削減に取り組んでいる。カリフォルニア州が自動車から排出されるガス削減の規制を決め、北東部十州でも排出量取引制度導入が検討されている。

 今後重要性を増す排出権取引だが、最終的に世界を網羅する取引の仕組みについてはまだ模索が続いている。日欧のほか、京都議定書に不参加の米国もシステム的な素地を十分に持つ。米国の出方が国際排出権取引の標準作りに影響を及ぼす可能性がある。

◇  ◇

 排出権取引を巡っては、非政府組織(NGO)などが「排出源での削減こそが基本」と批判的。排出権承認に必要な国連CDM理事会のプロセスが複雑で時間もかかるなど課題も多い。ただ国際的な協力の枠組みの中でも最も先進的なのは京都メカニズムなのも確かで、試行錯誤を続けながらも有力な手段の一つとなりそうだ。

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